「妄想」

痛い痛い。
何よりも気持ちが痛い。
私という生物が感情を伴っているという事が。
その上、こんなにも欲望や危険や生命を感じてしまう事が。
苦しみぬくという事が、何かしらの結果を生むことだと信じていた事が。
命の尊さよ。
愛情の温もりよ。
飯を平らげる。それだけで。
道を進む、それだけで。
何もかも満ちていたあの頃。
前の奴にも後ろの奴にも。
どんな奴にだって感謝できたあの頃。
今はもうない。もうここにはないのだ。
散々なるこの大地の上で、内臓も脳漿も感情でさえもむき出しだ。
何もかも晒された上で不条理の前で佇んでいるのだ。


痛い痛い。
何より意味のない結末が痛い。
しかし私は今許しは満ちている。
祈りは私の心に満ちているのだ。
なんという幸福だろう。
心地良い感覚だ。
痛みでさえも天からの理不尽でさも許せる。
不条理でさえ理解できるのだ。


ただ、先にたつ事で。愛を守れず、糧も生れず消えてしまう事で。
私というこの世界における矮小ながら、役割を持ち加担してきた存在が。
この場で残りのものを果たせずに逝くのが何よりの後悔だ。
時間よ待ってくれ。
この木偶に過ぎない私を置いていかないでおくれ。
私は。
まだ私は。


僕は、靴の下でそんな事を考えてるんじゃないかと、価値はもはや逆転されたんじゃないかと不安になって、黒く光った蟻を弔い泣いた。